ライラックR92 実務書1

 

イメージ 1今から53年前の1964年3月 月刊オートバイにライラックの新車解説記事が掲載されました。倒産後初の新型車、再起を掛けた新型車であるR92、当時の記事からも、その期待が窺えます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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■ 重量車の背景
エンジンの性能向上は、オートバイを小型化し、一昔前の250CC級と今日の125cc級とが匹敵し、昨今急激な勢いで伸びたモペツトは昔の125cc級と同等の性能を発揮するに至っている。 この伝法でいけばかつての500ccクラスは、今日の250cc車で十分おぎなえることになる。ところが一概にエンジン性能が向上したからと言ってもその出力やトルクの数値の上昇がただちにオートバイ全般の性能を小さいもので補えるかというとそうではない。やはり500cc級と250cc級とでは自とその持ち味が異なってくる。「持ち味」などという非科学的な言葉をメカニカルなオートバイに持ち出すのは不本意であるが、要は500CC級にはそれだけのものがあり、50CC級には50CC級の味があり、性能向上が全て「小は大を兼ねる」わけにはゆかないことである。してみればこのほど発売された500CC級R92型も、出力の数値だせけのことからすれば250CC級に毛が生えた程度かも知れないが、500CCという排気量とかオートバイ全体のボリーム、それから生まれ出る車の性格などを考えると、小型化しつつあるオートバイの中にあって、かなり有意義な車ということが出来よう。その制作意図、ねらいについては、まず第一目標は、海外向けにあるとメーカーは述べている。ハイウエイの発達した海外諸国では、原動力に余力のあるしかも適当にボリュームのあるものが喜ばれるという所から、この水平対向500CC級に白羽の矢をたて、しかも国内では極めて近い将来、高速道路の全通開通による需要を勘案したものであると明らかに述べている。
 
本文には、いささか期待感の無い書き方がされているが、この当時500CC級のバイクでは、カワサキ500K2しか無く、ライラックが時代を先取りし開発された事が感じられます。その後のW1、CB750の登場対米輸出を考えると、的確に事態の流れを掴んでいたとも考えれます。もし対米輸出が商業的に成功していたならホンダの様な4輪メーカーに発展したのではないでしょうか。
 
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水平対向2気筒の500ccエンジン
この車の特徴は何と言ってもそのボリュームあるパワーシステムにある。丸正自動車の伝統であるシヤフトドライブシステムを採用するからには短期等なら問題はないが2気筒を採用するとなるとシリンダ配置はおのずと限られてくる。
シャフトドライブ・システムで有利なシリンダ配置は並列の場合はV型、直列の場合は直立直列、その他では水平対向ということになり、このR92型は水平対向の2気筒を採用している。シャフトドライブで水平対向型の排気量をもつエンジンは日本ではかつて岩田産業で作られた「BIM」と大東製機の「DSK」があったが、この両車はエンジン機構のみならずフレーム構造から燃料タンクのデザインまでドイツの「BMW」に酷似したもので、むしろそのBMWのコピー・モデルとさえいわれた車であった。
しかし、丸正自動車のR92型は、パワーシステムが水平対向2気筒という同型なので、機構上相通じるところはあっても、その設計構想はBMWのコピーではなく、あくまでも丸正自動車独自の設計にもとずいて制作されたものである。
 エンジンの種類は4ストロークでバルブ型式はOHV。クランクケースを中央にして左右に水平に向き合って配置されたシリンダは、約33mmのオフセット量をとっている。すなわち左右のシリンダは33mmほどずれてむきあっているわけ。この大きな鉄のカタマリのようなエンジンケース部は前端がダイナモ、ポイント、自動進角ガバナーなどを収めた電装部分、その後方がクランクケースでシリンダより上方にカムシャフトやカムギヤなどのバルブ駆動関係部品が収まり、その下方即ち中央部はクランクシャフト、それに付属したオイルポンプギヤなどが組み込まれている。シリンダ後方部はクラッチケースで、ここにフライホイールをはじめ、乾式単板のクラッチアッセンブリーが組みこまれ、その後方が変速歯車やキックギヤの収まったミッションケースで、さらにケース上方は円形のエアクリーナーケースをも兼ねている。また、クランクケース底部は潤滑用のオイルだまりとなっている。
 
これらのエンジンケースはアルミ合金製で表面はショットピニング処置がほどこされてきれいな地肌である。シリンダおよびシリンダヘッド、そしてヘッドカバーも軽合金製であるが、シリンダには鋳鉄スリープがはめれらている。シリンダは内径68mm行程68mmのスクエア寸法で排気量は493cc。このエンジンは81の圧縮比をとり、最高出力35PS/6500rpm、最大トルク4.98kg/4700rpmの性能を有しているが最高出力の35.6馬力はリッター当たりに換算すると71.2馬力となり、今日の125ccや250ccの比出力の平均値と同等の水準のものである。 弁配置はOHV(頭上弁)式で、弁はプッシュロッドによって作動されるが、左右から相対するシリンダ基部のクランクケース上方にクランクシャフトに直結したカムギヤとかカムシャフトが収められていて、これが弁駆動の中心となっている。カムギヤによってクランクシャフトの回転を受けついだカムシャフトは、4個のカムをもちリフターピン、プッシュロッドを介して吸排気弁の作動をつかさどるわけ。弁開閉時期は吸気弁開が上死点前40°、閉が下死前60°、排気弁開は上死点後40°閉が下死点前60°で、タペットクリアランスはエンジンが冷えている時に吸入側・排気側ともに0.05mmが標準。クリアランスの調整はロッカーアームにある調整ねじで行う。
 
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点火時期は上死点前10°でポイントが開くのが正しい。
 点検は、まずエンジン部前方のダイナモカバーを外し、しかるのちクラッチケースの左肩(エアクリーナーケースの左前)にある点検窓からフライホイールに刻印されたクランク上死点前10°の線を窓の中心にしてこの時にダイナモ上方にあるポイントが開くかどうかをみる。ポイントのすき間は0.30.4mmが正規である。なお、点火時期は上死点前10°から最大クランク角度で30°まで進角する能力をもつ自動進角装置が採用されている。この進角装置はエンジン回転数が約800毎分回転ぐらいになると遠心力によって進角作動が始められる。
 ダイナモ(大平電子工業製・TD-1R型・電圧×出力12V×100W)はクランクシャフトの前端に直結され、自動進角装置およびポイントはその上方に配置されたカムシャフトと直結している。
 エンジンの始動はキック式で、キックアームはミッションケース後端のリヤカバーに突出したボスに組み付けられ、踏込み操作は車体の前後方向に対して直角の横踏み式である。これは従来のライラックにとられている方式と同様。
 点火方式はバッテリ式、プラグはNGKBC64Eが標準部品となっている。
 ミッションケースの上部に組み込まれたエアクリーナーエレメントは円形で、植毛金綱に囲まれた戸紙が用いられている。エレメントはカバーの頂部にあるノッブを回して固定ボルトを外せば簡単にとり出せる。
 吸気管はこのエアクリーナーケースの基部から左右にでてそれぞれ気化器を径てシリンダへ連結しているがBMWのそれと比較すると太くそして屈曲がある。
 気化器は左右シリンダにそれぞれアマルのVM2212°下向きにとりつけられている。この気化器のチョーク内径は25mm、ゼット番号は♯100である。なお、エアクリーナーカバーの下辺にはエアシャッター用のレバーが設けられている。
 エンジンの潤滑オイルはギヤポンプによって各部に送油されるウェットサンプ方式である。オイルはエンジン部下方にオイルパン(オイル溜り)をもっていてクランクシャフト先端にとりつけられたオイルポンプギヤによって各摺動部および回転部に送油され、潤滑の役を果たしたオイルは再び自然滴下してオイルフィルターでろ過されてオイルパンに戻る方式になっている。
 使用オイルは気温15℃以下の時候にあってはSAE2015℃以上の時候の時にはSAE30の使用が望まれている。エンジンオイルの注入口は左側シリンダの基部にあり、つまみのついたねじ栓はゲージ棒を兼ねてオイルパンまで達しており、オイル基準線が刻まれているのでこのゲージに従ってオイル補給を行う。
 オイルの補給および交換時期は新車時より500km走行で第一回目の全油交換を行い、その後は2000km走行ごとに交換することが望まれているが、その間の点検により、汚れのひどい時、オイル不足の時には交換または補給の必要がある。オイル注入の時は車体を垂直に立てること。エンジンオイルの排出はオイルパンの底にある排油栓より行う。
 エンジンオイルの容量はゲージの基準線まで入れると約2ℓの容量となる。
 
 本文中には、BMWとコピーでは無いと言い切ってはいるが、エンジンに関しては、シリンダーヘッド、タペットカバー、エアークリナーケース等、コピーだと言われても仕方が無い部分が多くあります。何らかの参考にしているのは間違いと思いました。
 
 ■クラッチと変速機
 クラッチは乾式単板式でクランクケース後方のケース内にフライホイール、プレッシャープレート、クラッチディスク、アウタープレートからなり、クラッチのプッシュロッドはミッションのメインシャフト内を通り、ミッションケースの最後端カバー外へ貫通してレリーズアームに接している。
 クラッチはレバーの先端が40mmぐらいのところから切れはじめるのが理想とされ、その調整はエンジンケース部の後端カバー面にあるレリーズアーム部の調整ねじで行う。
 ミッション機構はクラッチ部分の後方ケース内にあって常時噛合のロータリー式4段変速が採用されている。操作は左足動式でニュートラル位置では(キーが接続されていれば)前照灯上に設けられている青色のニュートラルランプが点灯する。
 変速比は①4.29、②2.78、③2.09、④1.59、一次伝動はエンジンと直結で減速比は1:1、二次伝動はシャフトによって行われ、ベベルギヤによって減速されている。二次減速比は3.222である。
 ミッションオイルはケース左側にある変速レバー基部の注入口より入れる。容量は注入口より油面が見えるところまでが基準量。排油はミッションケースの底にある排油口より排出する。容量は約500cc。
 第1回のオイル交換は300km走行時に行い、その後は点検・補給して5000km走行毎に交換が望まれている。
 ■伝動機構
 シャフトドライブ機構は丸正自動車が伝統的に採用している伝動方式で、今日の国産中では唯一の存在。この伝動方式を活かすために並列V型2気筒が生れ、そして水平対向エンジンが採用されたともいえるほどである。
 エンジンからの駆動力はプロペラシャフトによって伝えられ、さらに最終的にはベベルギヤによって後輪に伝えられている。
 このベベルギヤは表面地肌をショットピーニング処理されたアルミ合金のケース内に収まっており、斜歯(スパイラル)歯車となっている。
 また、ミッションドライブシャフトとプロペラシャフトとの接続にはゴムカップリングが使用されており急激回転のときのショック、また後輪緩衝のために生じるプロペラシャフトの上下動の緩和が行われている。
 このジョイント部のゴムカップリングはミッションのドライブシャフト側の3本のツメにはめられ、その3本のツメの間へ更にプロペラシャフト側の3本のツメがはまりこんで接続されるもの。そしてプロペラシャフトはベベルケース内に入って最終駆動用のスパイラルベベルギヤとはゼッパー式(さし込み式)接手によって接続している。
 ベベルギヤは従来の250cc級のものより当然大きくなって強度保証がなされているが、そのほかにもベベルケース内のピニオン部に250cc級のL8型よりも1箇余計(計3箇)にベアリングを使用し、更にベベルギヤに圧入されたシャフト支持のベアリングもボールを複列にするなど、500cc級としての耐久性が考慮されている。
 ベベルケース内ではスパイラルベベルギヤとかベアリング類の潤滑を行うためにオイルバス形式となっている。
 この部分は比較的重荷重がかかるところなので使用オイルも粘度の高いハイポイドギヤオイル#90~#40で、ベベルケース上部にある注油口より入れ、ケース下方にあるオイルレベルスクリューの孔から滴下するまでの量が必要。この量は約50cc。
 また、ゼッパー接手部分にはグリス注入の必要があり、そのためにケース側面にゴムキャップで保護したグリスニップルがついている。
 ベベルケース内のオイルはミッションオイルと同様に,初め300km走行時に第1回のオイル交換を行い、その後点検・補給して500km走行毎に交換が望まれている。また、ゼッパー接手へのグリス注入は2000km走行毎に補充し、その後はこれも5000km走行毎にグリスの入れ替えが望まれている。
  
 ■車体関係および足まわり
 フレームは銅管のクレードル型で、フロントダウンチューブは2本。エンジン懸架はクランクケース下端、オイルパンの上部にある前後二箇所の貫通孔にシャフトを通してフレームに固定され、更にフランクケース頂部でもメインフレームに結ばれている。
 ステアリング部分からタンク部分を通るメインフレームは約40mm径、その他のサブパイプは3035mm径の鋼管が用いられ、結合部はアーク溶接されている。
 このフレームのフロントダウンチューブには約30mm径の鋼管を用いたセーフティーガードが固定され、左右に出突った水平対向ツインのシリンダ部を保護している。このガーダーパイプはかなり堅牢にフレームに固定されていて、転倒実験でシリンダの保護に十分役立つことが立証されている。
 燃料タンクはLS39型のものが使用されているが、水平対向2気筒、しかも500cc級の大きなエンジンに対してこのデザインはボリュームがあって十分にマッチしている。そしてこのタンクのお陰でライラック調が強くうち出ていることも確である。この燃料タンクには15L入り、燃料コックは予備コック付である。
 シートはデュアルシートが標準装備品で、キャリヤは原則として装備しない。シート高さは790mm。また、フレーム左側のバックパイプにはポータブル・エアポンプが常装備品としてつけられており、ステアリング部にはヘッドロックが設けられている。このヘッドロックはメインスイッチのキーとは別個の専用キーによって操作する。
 ツールボックスはシートの右下にあり、左側のシート下空間はバッテリの格納場所となっている。
 前輪懸架はテレスコープ式、後輪はスイングアーム式でそれぞれ油圧ダンパーを内蔵した緩衝装置を備えている。
 前フォークはほぼLS39型のものと同じもので緩衝ストロークは上に90mm下に30mmの計120mm、後輪のスイングアームのうち右側のアームはプロペラシャフトおよびベベルケースがアームを兼ね、ミッションのドライブシャフトとのジョイント部分が後輪揺動のピボット点となっている。ストロークは上に40mm下に25mmの計65mmが標準データーである。
 前輪フォークの油圧作動油はスピンドル3とSAE30のオイルを7割の混合油が片側に240cc用いられている。後輪緩衝の作動油も前フォークと同じオイルを同じく73の割合で混合したもので片側に45ccの量が適量となっている。前フォークはフォーク下端側面にあるビスを外して排油し、上端のナットを外して注油することが可能だが、後輪ユニットは車体へとりつけたままでの注油はできない。
 なお、前輪フォークの頂部にはスプリングによるハンドルダンパーが設けられている。このフォークのキャスター角は63°トレールは93mmである。
 ハンドルはパイプ製で755mm巾、左右のかじ取り角度は左右にそれぞれ45°。ハンドル左右の各レバーに連結されたワイヤーはアジャスター付。
 タイヤは前輪が3.25-18吋、後輪が3.50-18吋のダンロップ製で、国産車中では最大の部類に入る。ブレーキドラムはスポークが外部に出ていないスポークレス・ドラムで、ライラックが好んで用いるタイプである。ドラムは外径178mm、ブレーキライニング巾は35mm。ドラム本体はアルミ合金、ドラムカバーは鋼板製である。ブレーキは前後とも内部拡張式、前輪はワイヤー作動、後輪はロッドで作動する。
 前後車輪の着脱は比較的簡単で、前輪は車輪右側の6角ナットを外し、フォーク下端を締付けている2個の8mmボルトをゆるめて車軸を左側から抜きとれば車輪は下へ取り外せる。後輪は左右どちらかの車輪ナットを外して車軸を外せば左側にあるスペーサーが外れて車輪はベベルケースを残して取り外せる。車輪取り付けは前後ともその逆の方法で行えばよいわけ。
 ■電装・証明類
 点火方式はバッテリ方式で、エンジン始動はキック式である。バッテリは湯浅製の型式はMBN3-12で電圧×容量は12V×16AH。ダイナモはエンジン部前方のクランクシャフト先端にとりつけられている。種類は直流の定電圧式で電圧出力は12V×100W
 証明類はすべて12Vシステムで前照灯は35W/25Wの電球式、方向指示灯は10W、尾灯5W、制動灯は20W。そのほかメーター照明灯、そして前照灯ケース上部にニュートラルランプ(緑)とチャージランプ(赤)、そしてウインカー確認ランプ(黄)が装備されている。
 メインスイッチは前照灯ケース上にあって4段切り替え式。1段目はoff、2段目は昼間走行、3段目が夜間走行、そして4段目が夜間駐車位置で、この位置では駐車灯がついたままでキーが抜ける。
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