ロードインプレッション記事  64年5月 月刊オートバイ

 

 

 

月刊オートバイ1964年5月号の記事にライラックR92のロードインプレッション記事が発行されました。
とても興味深い内容です。
 
ロードインプレッションと定地テスト
ライラック R-92型 500cc
 
われわれが本当に憧れた車は一名<青枠>(ナンバープレートとの周囲が緑だから)と呼ぶ500cc級以上の車で、重量車の名にふさわしく車そのものも、また排気音も重々しい車であった。
しかし道路の中央部を豪快な排気音を響かせながらつっ走り、乗る者にプライドを感じさせていたこの車種も、道交法の改正以来モペットなみに道路の左側に追込まれてしまった。
法定最高速度は60km/hと従来のままであるが、割高な自動車税、車検制度等も同じく昔のままである。また一部有料道路では二輪と四輪とに別の最高速度を分けているのをみると一層この自動二輪車という車種に対する魅力が薄らいでしまう。また自動二輪車免許の問題もある。
これらの理由や小排気量車の高性能化などが重なって重量車を作るメーカーも戦列から徐々に離れていき、昨年には500cc級の生産はメグロ一社という淋しい状態になってしまい、国産重量級は消滅するのではないかとわれわれはひそかに心配していたのである。
そのようなおり、一時二輪車メーカーの戦列を離れたと伝えられた丸正自動車が生産を再開、500cc級を発売するという我々にとっては耳寄りなビッグニュースが入った。
一刻も早くロードテストを行いたいものだと、自動車ショーで対面した日から望んでいたが、今回それがやっとかなえられた。
この65年当時、法定速度が、60キロ、今とは比べられない道路事情、殆んど重量車の供給と需要が無い時代背景の中記事が書かれています。今のバイク雑誌で新車ロードインプレッションを読む機会も無いが、当時の雑誌の記事の方のが事細かに、車両の外観、装備、機能、性能比較が書かれているのが興味深い。
 
連日雨天続きで晴れ間の訪れぬまま、吹降る雨の中をテスト車受取に出掛けた。
私の前に引き出された車はやはり大きいと感じた。いや大きいというより長いと感じた印象のほうが強かった。テストコースで見た時は場所的にも広い所なのでそんなに感じなかったのかも知れないが、フラットな一文字に近いハンドルの形態が特に車を長く見せるらしい。
大型のフラットツインエンジンといえばまずドイツの名車BMWを思い浮かべるが、このライラックR-92型のエンジンは正にそのものズバリのデザインである。がこれも“チェンのないオートバイ”をキャッチフレーズにするライラックにすれば当然のレイアウトというべきであろう。
しかし前輪サスペンションのテレスコーピックオレオやダイナミックな形態を持つ燃料タンクなどはライラックのものとして立派に消化されている感じであり、ボリュームの溢れるエンジンとあいまってダイナミックなタンクはどちらかといえばおとなしい感じのBMWより迫力のある車になっている。
深めにピッタリとしたフロントフェンダー、スッキリしたフロントのオレオテレフォーク、ニュームの塊のようなエンジン、アクセントの強い燃料タンク、厚いダブルシート、細身のマフラー、通称スポークレスドラムといわれる簡潔な感じのホイル回りなど、この車の全体的なバランスは非常に良くまとまっている。
通常街中ではあまりお目にかかる機会の少ないこの500ccのフラットツイン車は傍で見る者に威圧感を与える。
車に跨って上方から眺めると500ccのエンジンとはこんなに大きいものかと今更ながっら驚かされる。
今のバイクからすると500CCのバイクも無く1000CC以上が主流の中で、改めてR92を見てもそれほど大きいと感じません。むしろ小さくコンパクトである方が新鮮に見えてしまいます。
このエンジンは形態的にはBMWと全く等しいものであるが性能的にはBMW-R50型を上回るものを持っているといわれている。
498cc4ストロークOVHエンジンのボア×ストロークは68×68のスクエアで、81の圧縮比を持ち6300回転において35.6PSの出力を、4700回転時に4.98kgmの最大トルクを発生する。
 この35.6馬力の出力をリッター馬力に換算すると71.2馬力になり現在の国産車の平均値と同等の比出力を持つ。
 シリンダヘッドやヘッドカバーは言うに及ばず、シリンダーブロックも軽合金製であり、鋳鉄スリーブが挿入されている。
 これらのためか見た目には大きいエンジン部も65kgという重さにおさまっている。
 左右に振り分けられたシリンダー配置に対して高性能化には必然的な手段ともいえるツインキャブ方式がとられている。このキャブレターにはアマルのVM22型が12°の下向傾斜を持って取りつけられており、各々のスロットルワイヤーは燃料タンク下部にて一本にまとめられている。
 なおこれら2個のキャブレターには共通した一個の乾式のエヤークリナーを持ちミッションケース上部に組み込まれており、この部分にエヤーシャッター用のレバーが突出している。
 この左右に張り出したシリンダーヘッド部は肩幅くらいの一文字ハンドにより広いくらいであり、当然ながら不慮の転倒に備えてエンジン部を保護するセフティバンパーが装備されている。
 これらのエンジンユニットは鋼管ダブルクレードルフレームにスッポリト抱き込まれている。
 後輪懸架は油圧ダンパー付のスイングアーム式で右側のスイングアームはドライブシャフトケースがその役割を果たしている。
 この車の乗車に際しまずチェンジペダルとブレーキペダルを捜したくなる感じである。それというのもその各ペダルはキャブレターやシリンダーヘッドの下側に位置しており、一般の車のように上から確認しがたいからである。またそれに横に操作するキックペダルもちょっとまごつくものである。
 私がよくうけた質問の中に“重量車のキックは慣れないとできないでしょう”というのが相当あったがこの車に関しては、私の経験した500cc級のキック時の足応えとしては最も軽いものであった。
 これはワンキック当たりのエンジン回転数の少ないことも理由の一つだろうが、そのためにキックしても何か頼りなく感じ、またキック角度の狭いのも気になる。
 しかしこれで十分な始動性を示してくれるので特に指摘することもないがやはり車に跨ったままの横蹴りはやりずらいものがあった。
 
私も、30年前に初めライラックLS18をキックした時には、 当時乗っていた80sのホンダやカワサキに比べてキック角度の狭い事に違和感を感じた事を覚えています。
 
 
 
 燃料コックは15L入りのタンク右下方にあり、ストレーナー付の三方式が採用されガス欠のトラブルを防いでいる。
 ヘッドライトナセル上部には最高200km/hまでの目盛りを持つスピードメーター、2個のパイロットランプ、メインスイッチがありこのスイッチはOFF-昼間―夜間―駐車の4段式であるが、キーは差し易いとはいえないし防水に対しては何の配慮もなされてないのは惜しまれる。
 三個のパイロットランプは左側からフラッシャ(黄)、チャージング(赤)、ニュートラル(青)の順に並んでおり、始動時は青ランプの確認が必要である。
 この始動時に際してエヤーシャッターの操作は車に跨ったままではやりずらかった。私は常時キャブレターのチックラーによるオーバーフロートに頼っていた。しかしこのティクラーも左側より右側の方が位置的に狭く押しにくかった。
 前述したようにこの車の始動性は非常によく、2回ほど空キック後ほとんどの場合ワンキックで始動する。
 このテスト車に関してだけのことであろうが右側シリンダーがミスファイヤー気味でアイドリング時しばしばキャブに吹き返しを起こしエンストをした。この現象は相当エンジンの緩まった状態でも変わらず常時エンストに備えてスロットルグリップから手を離せないありさまだった。
 しかしこのエンジン不調もアイドリング時のみに限られており、エンジン回転数が1500附近まで上がって来るとそのような現象はおきず快調そのものであった。
 アクセルグリップはツインキャブにしては軽く戻りもよく、また回転角も無理のないものである。
 クラッチの手応えは500ccエンジンの発生する強馬力を確実に伝えるのにふさわしいしっかりしたものがあり、重すぎるというほどのものではない。
 この乾式単板クラッチは切れもつながりも確実であり、単板式に見られがちなシフト時のショックも少なく、適当なすべりがあって扱い易い。
 左足で操作するシフトチェンジペダルは短いために操作時に力がいるようであり、軽く操作するとしばしチェンジミスをおかした。それも特にローとセカンド間におこす機会が多く、特にローで引っ張り気味の時にこの傾向が強いようであった。
 またシフトアップ時に力を入れて操作をおこなおうと思っても爪先がシリンダー部に当りペダルに足を深く掛けることがきず、常時、爪先立った感じの変速操作をしいられていた。
 踏み返しレバーのないこのペダルは必然的に爪先で持ち上げる減速操作を行わなければならないが、その場合は爪先に邪魔になるものがないので完全に足を掛けられるのでチェンジミスはおこさなかった。
 
ロードテストのグラビアカラー写真
 
巻頭のカラーページ 
テスト車両は、ライラックR92の国内仕様、私の持っているマルショウマグナムSTは、外観上の違いだけで、深い時フロントフエンダー、メッキの丸型テールランプ、ウインカー等の違いがあるだけで性能面では粗同じです。
 
春とはいえ10°前後の気温の下で完全に冷えたエンジンも、約2分位の暖気運転(1000
回転位)で落ち着いた状態になる。ウォーミングアップの時間は短い。
 スタート前の空吹かし時にエンジンの回転反力のために車が右に傾くのを知り、発進時にやや神経質になったがシャフトドライブ機能を極端に感じるほどのこともなくスムーズに走りだした。
 両膝でガッチリとタンクを挟んで腕を伸ばすとやや前傾したスタイルにはなるが、最初の印象ほどハンドルとシート間は長くない。
 しかし重い。加速の良さ、シャフトドライブ等という精神的な息苦しさに加えこの短いハンドルは身体が車に馴染むまで多少ぎこちない感じになるのは致し方ない。
 ロー、セカンド、サード、トップを気持ちよく加速していったが、顔に当たる雨の痛さにスピードメーターを見ると80km/hをオーバーしているのにあわててアクセルをゆるめる。無意識にアクセルを戻すとやはりシャフトドライブ特有の横振れが感じられ、一瞬変な気がする。
 路面からの泥水の跳ね上がりを気にしながら雨の中をつっぱしるが意外と足元は濡れない。
 帰宅後車の汚れを調べてみたがフロントフェンダーの形状が良いのかエンジン回りはきれいであった。ましてシリンダーヘッドやキャブレターの後につっこんでいる足元は当然ながら泥水から守られていたのであろう。
 路面近くに位置するシリンダーの汚れは私自身心配した事の一つでもあるが意外な結果に驚いた次第である。
 
 吹きまくる強風と共に訪れた晴天の一日、郊外へテストに飛び出した。
 例により良好な始動と共に走りだしたが、走行開始後5分くらいしてエンジンが暖まった状態になってくるとタペットの音が大きくなってくるのが耳につく。
 この車のようにエンジンヘッドが両側に出ている車はライダーに対して音が直接聞こえてくるからであろう。
 直立エンジンの場合はヘッド部が燃料タンクの下部にあり雑音が上に聞こえにくいことは経験している。エンジンのうるさいことで定評のあるトライアンフでさえライダーは囲りの人が感じるほどうるさくないものである。
 しかし暖気後にでるタペット音を気にして調整するとバルブの突き上げに依る不調を引き起こす恐れがある。
 このテストに貸与された車は未調整の部分が多くこの車本来の姿でないと思われる所が多分にあった。
 だがタペット音の増大に関係なくエンジンは好調に回転を続け伸びも素晴らしい。
 ギヤレシオの配分も無理なく扱い易い。
 ミッションでの変速比はロー4.29 セカンド2.78 サード2.09 トップ1.59であり一次は直結の11 二次伝導はシャフトにて行われ後輪ハブ内部のスパイラルベベルギヤにて減速されその減速比は13.22にとられている。
 毎回どの車のテスト時にも感じるのだが一口に不具合といってもまず“最初に車に乗って感じる”もの、“乗り馴れると感じてくる”もの、“馴れると気にならなくなる”もの、等があり、長所もまた同じである。馴れると気にならないものは乗り手の不馴れのためであるが、いくら馴れても不調な個所はあくまでも欠点であろうと私自身判断している。
 この車もいろいろな条件で走らせて見ると数多くの長所、短所を示してくれた。
 この車は各段とも気持ちよく強力な加速を見せ、やはり大排気量車の貫録を示す。試みに各段での最高速を調べてみた結果、ロー5560 セカンド8590 サード115120の各スピードまでは直線的に加速する。
 このとき各段でのエンジン回転数は約65006600附近であり、完全にバルブサージング(バルブ作動が不完全になること)を起こしていた。このエンジンの6300回転という最高出力回転数は決して低くはないが、それに比較してサージングを起こすのが早ぎる感じで、数字の上から見ればよく回るとはいえない。これは前記したタペットクリアランスやキャブレターへの吹返し(点火時期や燃料系統に不調があるのなら)なども影響して、エンジン回転の上昇を阻害してるものと思われる。
 これだけのバランスの良く取れたエンジンなのだから少なくとも軽負荷の場合は楽に70007500回転あたりまで回ってもらいたいものである。またそれらの個所を再調整することによって容易にその性能に達することは十分感じられるエンジンである。
 走行中のアクセルに対する車速の反応はやはり強力なエンジンを感じさせ、通常いかなるスピードで走っていてもエンジンが可哀想だという感じは全然ない。また小排気量のエンジンで、回転数とギヤレシオで最高速を上げた車と異なり実に乗り易い(エンジン操作面で)車であることはやはりこのクラスの大きい特徴といえよう。
 それはトップの最低速を見ても理解できる。一般的な通念として最高速が150km/hを上回るような車はノンスナッチスピードは高いものとされているが、この車は20km/hにおいても実にスムーズに走り、それからの加速も、もたつかず、意外と速い加速を見せる。このことはこの車のエンジンがいかに柔軟性に富み扱い易いものであるかをはっきり物語り強力なトルクを目のあたりに見せてくれる。
 だがこのようにトップで30km/h前後でそうこうすることはこの車本来の姿でないことはもちろんである。この車が水を得た魚のように本領を発揮するのはトップで80km/h前後のスピードからである。エンジン回転数にして3000回転以下では回転がスムーズでないような小さな振動があり3000附近を境にして消滅する。この振動は加速した時に起きる一種のノックのような感じで車の身震いのように感じられる。
 
一度、ライラックR92マルショーSTのロードインプレッションを試みたいと思っています。

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